「2階は今使ってないんだよ」
そう笑った女将さん。それなのに夕方になると二階へご飯を運び、5分ほどで空のお盆を持って戻ってくる――。
大学生3人の、住み込みのリゾートバイト。働いて、海で遊んで、夏を終えるだけのはずでした。あの二階の階段を上るまでは。
結末までのネタバレを含みます。 原作を先に読む方は原文の案内へ、女将の目的、美咲ちゃんに似た声、坊さんの嘘など、気になる謎へは目次からどうぞ。
リゾートバイトとは?海辺の旅館を舞台にした長編怪談

この章のポイント
- 2009年に怖い話投稿サイト「ホラーテラー」へ投稿された、全6回の長編ネット怪談
- 舞台は海辺の旅館。「使っていない」はずの二階へ、女将が食事を運んでいた
- 実話だと裏付ける第三者の資料は、今回の調査では確認できていない
「リゾートバイト」は、海辺の旅館で住み込みのアルバイトを始めた大学生3人が、使われていない二階に近づき、怪異に巻き込まれる物語です。本編5回と後日談「その後」の、全6回で構成されています。
前半には冗談も多く、友人同士の夏休みらしい軽さがあります。ところが、二階の階段を上ったあと、同じ旅館がまったく違う場所に見えてきます。
| 項目 | 基本情報 |
|---|---|
| 確認できる初期掲載 | 2009年8月、怖い話投稿サイト「ホラーテラー」。掲載名は「匿名さん」 |
| 舞台 | 地名の明かされない海辺の旅館。一階に客室4つがあり、二階は使われていない |
| 作者名義 | 2023年、映画公式サイトが投稿者を「日向麦」と紹介 |
| 映像化 | 2013年の映像作品、2023年の映画 |
初出と作者については掲載記録の章で、出典を添えて説明します。
まずは5つの要点であらすじを確認

- 大学生3人が海辺の旅館で働き始め、使っていないはずの二階へ女将が食事を運ぶ姿を見ます。
- 二階を調べたあと、3人は旅館を辞めます。しかし、正体の分からないものがついてきていました。
- 女将の夫の助けで坊さんを訪ね、寺の小屋で一晩、声を出さずに過ごします。
- 坊さんは、女将が行方不明の息子を呼び戻す儀式を行っていたと説明します。
- 3人は帰還しますが、女将のその後や坊さんの説明には謎が残ります。
ここから、旅館での異変、寺での一夜、帰り道の順にたどります。物語をご存じの方は、女将さんの謎へ進んでください。
全6回のあらすじと結末|二階の階段から、最後の電話まで

この章のポイント
- 第1〜2回:二階で語り手が見たのは、残飯の山とお札で封じられた扉
- 第3〜5回:爪の入った巾着と、寺の小屋「おんどう」での一夜
- 「その後」:坊さんが語る昔話と女将の儀式、そして最後の電話
第1〜2回:使っていないはずの二階
舞台は、語り手が大学3年生だったころの夏です。もともとは仲間5人で海へ遊びに行く計画でしたが、そのうち2人はゼミの合宿があり、バイトには参加できませんでした。
先に働きに行ったのが、物語を語る「俺」と友人のA・Bです。残る2人は、あとから客として旅館に泊まりに来る予定でした。
働くことになったのは、民宿のような二階建ての旅館です。そこを切り盛りするのは、女将の真樹子さんと、その夫である旦那さん。そして、地元で育った従業員の美咲ちゃんです。客室は一階にあり、二階は今は使っていないとのこと。3人は、まだシーズン前だからだろうと受け流します。
一週間ほどたったころ、Bが女将さんの食事運びを仲間に話します。使っていないはずの二階へ、お盆を持って上がっていくのです。その後、3人で確かめると、女将さんは5分ほどで戻り、お盆は空になっていました。
女将さんが戻ったあと、3人は二階へ通じる階段を調べに行きます。入り口は建物の外にあり、ドアの先には、人ひとりがやっと通れるほどの狭い階段が続いていました。語り手だけが上り、AとBは下で待つことにします。
足元で、何かが割れるような音がしました。突き当たりには蝿のたかる残飯の山。その奥の扉は、釘で打ちつけたベニヤ板と、大量のお札(おふだ)で封じられていました。釘に絡む細い紐は、くもの巣のように見えます。
扉の向こうから、何かを引っかく音と、不規則な呼吸が聞こえました。それが一瞬やんだあと、今度は頭の真上、天井裏から聞こえてきたのです。
AとBの叫び声で我に返り、語り手は階段を駆け下ります。しかし、戻った部屋でAから聞かされたのは、覚えのない自分の姿でした。上に着くなりしゃがみこみ、何かを必死に口へ詰め込んでいたというのです。
胸元は腐った残飯で汚れ、足の裏と膝には細かい切り傷がありました。張りついた破片を見たBは、爪ではないかと震えます。
3人は翌日には辞めようと決め、布団を2枚くっつけて横になりました。誰も、寝息を立てませんでした。
第3〜4回:Bに見える影と、爪の入った巾着
翌朝、Bは、階段の下から影を見ていたと語り手に打ち明けます。数は3つか4つ。人の形をしているのに、蜘蛛のように壁や天井を動いていた。しかも「今も見てる」と言うのです。
そばで聞いていたAがその発言を確かめると、Bは錯乱していただけだと笑ってみせました。しかし、その笑顔は明らかに作り笑いでした。
朝食の席では、女将さんが語り手の足元を見て笑い、箸を止めたまま見つめ続けていました。Bは部屋に残り、Aのパソコンで何かを調べ、電話をかけています。語り手は、朝食を取らないBのために、美咲ちゃんへおにぎりを頼みました。
3人が辞めたいと伝えると、女将さんはしばらく黙り、やがて了承します。別れ際には、3人それぞれに給料の茶封筒と、小さな巾着(きんちゃく)袋を渡しました。美咲ちゃんが持たせてくれたのは、3人分のおにぎりです。
タクシーが走り出すと、Bが行き先を変えました。朝の電話で、お祓いの予約を取っていたのです。そこへ旦那さんの軽トラが追いつきます。
旦那さんは、語り手が二階へ行ったことを見抜き、このまま帰れば持っていかれると警告しました。一番危ないのは、影が見えるようになったBだと。Bが予約した先でお祓いを受けても、どうにもならないだろうと話します。
その代わり、事情を知る人へすでに連絡してあるという旦那さんを頼り、3人はタクシーを降りて軽トラに乗り換えました。
着いたのは、小さな鳥居の横にある一軒家です。座敷では、坊さんのほかに、男性が二人待っていました。坊さんは、Bに、このままでは助からないと告げました。
坊さんは3人を家から連れ出し、鳥居をくぐって石段を上り、寺の奥にある小屋へ案内します。この小屋が、夜を過ごすことになる「おんどう」です。途中、Bは、ついてくるものが二本足で立っていると話しました。坊さんは、Bに見つけてもらえたのが嬉しかったのだろう、と応じます。
清めの水を受けたあとも、Bだけはおんどうに入れず、外へ飛び出して吐きました。旅館で受け取った物を尋ねた坊さんが、Bの巾着を開けると、中には大量の爪の欠片が詰まっていました。
坊さんは荷物を預かり、Bをもう一度清めたうえで、3人を小屋に入れます。声を出したり、外のものと話したりしてはいけない。自分たちは本堂におり、朝まで誰もここには来ない。そう言い残して、扉を閉めました。
第5回:美咲ちゃんの声が、扉の外でBを呼ぶ
3人は、Aがこっそり持ち込んだペンとガムの包み紙で筆談しながら、日暮れを待ちました。
夕方になると、蝉の声にまぎれて、旅館の二階で聞いたような呼吸の音が聞こえてきます。何かを引きずる音も、小屋の周りを移動していました。夜には、扉のすぐ外からBを呼ぶ声がします。
「Bくんおにぎり作ってきたよ」
美咲ちゃんの声でした。けれど抑揚はなく、機械のように同じ言葉をくり返します。途中には、旅館で耳にした「いらっしゃいませ」まで混ざっていました。
坊さんは、朝まで誰も来ないと言っていた。外にいるのは美咲ちゃんではない。語り手はそう考え、息をひそめます。
やがて、扉を激しくたたくような音がし始めました。音は壁に沿って移動し、語り手は小屋の壁の隙間から、外にいるものの顔を見てしまいます。月明かりに照らされた黒い顔に、細長い白目が浮かんでいました。音の正体は、そのものが頭を壁に打ちつける音だったのです。
それはしばらくして離れていきました。Aは姿を見ていませんでしたが、去り際のカラスのような奇声は、Aだけが聞いていたといいます。
朝、扉を開けたのは坊さんでした。Bはもう見えないと話し、語り手は安堵のあまり泣き出します。腰が抜けて立てない語り手を、坊さんと、一軒家にいた男性の一人が両側から支えました。一軒家へ戻る途中、寺の横から聞こえた叫び声を、Aは女将さんの声ではないかとささやきます。
3人は、最初に坊さんと会った鳥居の横の家へ戻り、ようやく眠りにつきました。第5回はここでいったん終わり、目覚めたあとの話が「その後」に続きます。
「その後」:女将の儀式と、最後の電話
目覚めた3人に、坊さんは小さな木箱に入った臍の緒(へそのお)を見せます。赤ちゃんと母親を胎内でつないでいた、へその緒です。
臍の緒には、大病のときに煎じて飲ませると助かる、子に持たせると命の危険から守る、といった言い伝えがあると坊さんは話します。そして、寺に残る記録をもとに、この土地の昔話を語り始めました。
ここから登場する母親2人は、女将さんとは別の、昔の人物です。
漁師の多いその土地では、母親が子に臍の緒をお守りとして持たせていたといいます。海の危険から守り、行方が分からなくなっても母のもとへ帰れるように、という願いを込めたものでした。
あるとき、海で子を失った母親が、子が帰ってきたと喜び始めます。続いて、別の母親も同じことを言い出しました。
最初の母親が村人に見せた「子」は、全身が青紫色に膨れ、母親が話しかけると、カラスの鳴き声のような奇声を上げる異様な姿でした。相談を受けた当時の住職は、母親を寺へ連れていきます。しかし母親は逃げ出し、のちに岸辺で遺体となって見つかりました。体を食い破られていたのに、顔は幸せそうだったといいます。
もう一人の母親は、おんどうに入れられ、子と引き離されました。すると、その「子」は歩けなくなり、蜘蛛のように地を這い、やがて手足を失い、夜明けには臍の緒だけを残した。そう坊さんは説明します。
では、いま目の前の木箱にある臍の緒も、昔から残されていた物なのでしょうか。坊さんの答えは違いました。3人がおんどうで夜を過ごした翌朝、「おんどう奥の岩の上」で見つかった物だというのです。
話は、現在の女将さんへ移ります。女将さんも、数年前にひとり息子が海で行方不明になっていました。坊さんの説明では、女将さんは二階へ続く階段に「堂」を作り、息子を呼び戻す儀式を行っていたのです。
3人を雇ったのは、息子と同年代の若者がいれば、帰ってきたように感じられるから。旦那さんはそう説明したといいます。一方、坊さんは、戻ってきたものが3人を「親」として取り憑くことを、女将さんは初めから分かっていたのではないか、と推測しました。
女将さんも、すでに寺へ連れてこられていました。3人がおんどうにいた夜、坊さんたちは女将さんを本堂に留め、経を読んでいたといいます。怪異が3人と女将さんのどちらへ向かうのか、分からなかったからです。
Bは、自分たちを巻き込んだ理由を聞こうと、女将さんに会わせるよう求めます。案内された離れで3人が見たのは、畳に横たわり、体をしならせて跳ね続ける女将さんでした。
離れを出たあと、Bが、二階で見た影は一つではなかったと話します。坊さんは驚いて聞き返し、3人に鳥居の横の家へ戻って部屋から出ないよう指示すると、女将さんのもとへ引き返しました。
3人はその家で、別の坊さんが付き添うなか、もう一晩を過ごします。翌朝、最初の坊さんがやってきて、3人についたものは祓えたと告げました。
けれど女将さんは救えなかった。死んだのかという問いには、そうではないと答えますが、回復の見込みは語りませんでした。そのあと部屋に入ってきた旦那さんは、土色のやつれた顔で、泣きながら3人に謝りました。
帰りはタクシーです。おんどうから戻る朝に語り手を支えた、あの男性が駅まで同乗しました。よく喋るその男性は、子が親を食うなんて蜘蛛みたいな話だと言い、ここで聞いた儀式を試すなよ、と笑います。
語り手は、その言葉から、儀式の方法は地元に伝わっているのだと考えます。それなら坊さんも知っていたはずだ。大事なところを隠されていたのではないかと、疑いが残りました。
家に帰ってから、3人の身には何も起きていません。ただ、Bはあれ以来、蜘蛛を見るのが苦手になったといいます。
後日、もともと旅行に合流する予定だった友人2人が、この体験を聞いて旅館へ電話します。電話に出たのは、普通のおばさんだったそうです。友人たちは、女将さんかどうか確かめるよう、語り手たちに勧めました。電話の向こうで、カラスが異様に鳴いていた、とも。
語り手に、その後を知る勇気はありませんでした。
女将はなぜ3人を雇った?生贄説と二階の食事

この章のポイント
- 女将の本心は、本人の口からは一度も語られない
- 坊さんは、怪異が3人を「親」として取り憑くと女将は知っていたのではないか、と推測する
- 息子は「行方不明」。二階の閉鎖も、失踪の直後ではない
ここからは、物語に残された謎を考えます。特に、女将さんの意図は、本人ではなく旦那さんや坊さんを通じて語られている点が重要です。
3人は息子の代わりだったのか
| 手がかり | 誰の説明か | 分かること |
|---|---|---|
| 旦那さんは当初、3人を雇うことに反対した | 旦那さんの話を坊さんが伝える | 雇用は女将さんの強い希望だったとされる |
| 息子と同年代の若者がいれば、帰ってきたように思える | 同じく旦那さんからの伝聞 | 女将さんが夫に伝えた理由。真意まで確認されたわけではない |
| 戻ってきたものが3人を「親」として憑いていくと、初めから分かっていたのではないか | 坊さんの憶測 | 意図的に巻き込んだという読みの根拠。ただし推測 |
「女将さんは3人を生贄にしようとした」という読み方もあります。原作で坊さんが推測するのは、戻ってきたものが3人を「親」として取り憑くと、女将さんは初めから知っていたのではないか、ということです。
「親」にされることと、犠牲になることは両立するため、この説明だけで生贄説を否定することはできません。ただし、女将さん本人の告白はなく、3人をどこまで意図的に巻き込んだのかは確定しません。
朝食で語り手の足元を見て笑ったこと、退職の申し出にも驚かなかったように見えたことは、不気味な手がかりです。しかし、それだけで計画の全容が分かるわけではありません。
二階を閉めたのは、息子がいなくなった直後ではない
坊さんの説明では、女将さんの息子は海で行方不明になり、大規模な捜索でも見つかりませんでした。遺体が確認されたという話ではありません。
二階の閉鎖にも、時間の隔たりがあります。
- 息子が海で行方不明になる。
- 女将さんは周囲に慰められ、少しずつ元気を取り戻す。
- 旅館も繁盛し、周囲が事件を忘れかける。
- そのころ、二階が閉鎖される。
正確な年月日や、儀式を始めた時期は不明です。一階の営業は続いており、アルバイトを雇うこと自体が不自然だったとも言い切れません。
空のお盆と残飯の山は、どうつながる?
女将さんが食事を運んだあと、お盆が空になっていた。それだけでは、二階で誰かが食べたとは限りません。
語り手は、食事を残飯の山に積み足していたのではないか、と考えました。そう読めば、5分は食べ終わるまでの時間ではなく、置いて帰ってくるまでの時間です。
この食事が何のためのものだったかは、最後の考察で読み解きます。
女将はどうなった?電話に出たのは本人?
帰還する朝、坊さんは女将さんの死を否定しています。しかし、その後の回復は確認されていません。
電話をかけたのは、旅館での出来事に居合わせなかった友人2人です。「普通のおばさんが出た」という報告だけでは、声の主が女将さん本人かどうかも分かりません。電話が通じたことを、女将さんが元気になった証拠にはできないのです。
美咲ちゃんの正体は?「おにぎり作ってきたよ」の声を考察

この章のポイント
- 美咲ちゃんが怪異や共犯者だったと確定できる描写はない
- 巾着を渡したのは女将。おにぎりのきっかけは語り手の頼み
- 2010年の掲示板でも、美咲ちゃんはすでに疑われていた
本文の行動からは、普通の地元の従業員として読むのが自然です。ただし、夜に彼女の声がした理由は説明されず、不気味さが残ります。
美咲ちゃんが渡したのは、おにぎり。巾着は女将から
昼間の美咲ちゃんは、3人を迎え、客室を掃除し、体調の悪いBを心配する人物として描かれています。別れ際には泣きそうな顔で、おにぎりを持たせてくれました。
最初におにぎりを頼んだのは語り手です。朝食を取らないBのために頼み、美咲ちゃんは別れ際に3人分を用意しました。一方的に怪しい物を渡した、とだけ読むことはできません。爪が入っていた巾着を渡したのは、女将さんです。
女将さんの居場所を聞かれ、花に水をやっているのではないかと答えた場面もあります。しかし、その返事が嘘だったことや、儀式を隠そうとしたことまでは示されていません。
扉の外にいたのは、美咲ちゃん本人だったのか
語り手には、美咲ちゃんの声に聞こえました。それでも本人が来たはずはないと判断します。坊さんが、朝まで誰も来ないと言っていたこと、声に抑揚がなく、人間らしい話し方ではなかったことが理由です。
外の声がくり返したのは、Bの名前、おにぎりの話、旅館のあいさつでした。いずれも、美咲ちゃんの日常の仕事や会話につながる言葉です。
ここからは一つの解釈ですが、怪異が旅館で耳にした声と言葉をまねていた、と考えることはできます。相手を安心させるはずの言葉を、不自然な調子でくり返していたのかもしれません。
美咲ちゃんの正体をめぐる3つの説
| 説 | 根拠になる描写 | 残る問題 |
|---|---|---|
| 普通の地元の従業員 | 昼の仕事や会話に、儀式への関与を示す決定的な点がない | 声が使われた理由は不明 |
| 女将さんの協力者 | おにぎりを渡し、女将の居場所について答えている | どちらも日常の行動として説明でき、共犯の証拠にはならない |
| 怪異そのもの、または怪異の側の存在 | おんどうの外で、彼女に似た声がする | 声の一致だけでは正体を決められない |
2010年の読者も、美咲ちゃんを疑っていた
この疑問は、最近になって生まれたものではありません。
2010年11月28日、2ちゃんねるのニュース速報板で、ホラーテラー第1回へのリンクを添え、隠された真実が気になると書いた読者がいました。翌29日には、その書き込みへの返信として、美咲ちゃんと儀式の関係を疑う意見が寄せられています。掲示板の書き込み(レス)には番号があり、ここで紹介するのは317番と540番です。


ここから分かるのは、発表の翌年には美咲ちゃんの役割が読者の疑問になっていたことです。当時の意見であっても、作者の意図を証明するものではありません。
坊さんの嘘とは?帰り道の一言と、Bが見た複数の影

この章のポイント
- 「坊さんの嘘」は、帰り道の男性の一言から語り手が抱いた疑い
- 坊さんは、儀式を知った経緯だけでなく、儀式そのものにも謎が残ると説明する
- 二階の影は3〜4つ、3人についてきたのは一つとされる。数の違いだけで祓い残しは断定できない
坊さんが何かを隠していた可能性はありますが、何をどこまで知っていたのかは、原作から決められません。
語り手が疑ったきっかけは、帰り道の男性の一言
駅まで同乗した男性は、寺で聞いた儀式を試さないよう、冗談めかして注意しました。
語り手は、その言葉を、儀式の方法がこの土地に伝わっている証拠だと受け取ります。この男性が知っていて、坊さんが知らないはずはない。信用していたのに、大事なことを隠された。そう考えると、安全を告げた言葉さえ、嘘に思えてきました。
ただし、男性はその場で儀式の手順を説明してはいません。語り手が「知っているはずだ」と考えたことと、男性や坊さんの知識が確かめられたことは別です。
「方法を知らない」と「知った経緯が分からない」は別
坊さんの説明を読むうえで、特に注意したい点です。
坊さんは、寺に残る住職たちの記録には、母親たちがいつ、どのように儀式を知ったのかが明記されていないと話しています。これは、儀式の方法自体が記録されていない、あるいは坊さんも方法を知らない、という説明とは違います。
ただし、坊さんは別の場面で、母親が行った儀式そのものも謎に包まれていると説明しています。「知った経緯」だけが不明だったと整理するのも不十分です。これらの発言と帰り道の男性の言葉を合わせると、語り手が説明に不信感を抱いた理由も見えてきます。
また、女将さんが行ったものは、土地に伝わる「子を呼び戻す儀」と似ていても、同じではなかったとされます。伝承の方法を知ることと、女将さんが何を変えたのかを知ることも、分ける必要があります。
| 読み方 | 支えになる点 | 断定できない理由 |
|---|---|---|
| 方法を知っていて隠した | 帰り道の発言から、語り手はそう判断した | 男性の知識も、坊さんが隠した内容も確認できない |
| 方法や現象の一部を、本当に知らなかった | 坊さんは儀式そのものにも謎が残ると説明する | どの部分が不明なのか、説明が事実かまでは確認できない |
| 伝承は知っていたが、女将の儀式を把握していなかった | 女将の儀式は、土地の儀式と異なると説明される | どこまで知っていたかは明かされない |
坊さんを疑う読みは成り立ちます。けれど、「嘘をついた」と結論を先に置くより、説明されなかった部分がどこなのかを追うほうが、この結末に近づけます。
旦那さんは、どこまで知っていた?
旦那さんは、語り手が二階へ行ったことを見抜き、Bが特に危ないと告げました。以前にも似たことがあったような口ぶりで、お祓いに行くだけではどうにもならないとも話しています。
一方、坊さんは、旦那さんが知っていたのは伝承としてだろうと説明しました。怪異の危険を知ることと、妻が実際に行った儀式を知ることは別、というわけです。
それでも、なぜあれほど的確に追いかけてこられたのかという疑問は残ります。最後に泣きながら謝ったことも、共犯だった証拠とは言えません。妻のしたことへの衝撃や、3人を危険にさらした責任から泣いていたとも読めるからです。
Bは3〜4つ見たのに、祓ったのは一つ?
Bは階段の下から、3つか4つの影を見たと話しています。ところが、女将さんの姿を見たあと、Bが見たものは一つではなかったと伝えると、坊さんは驚いて聞き返しました。
翌朝の説明では、3人についてきたものは一つで、退化して消えたことを確かめたといいます。同時に、女将さんの作った「堂」には複数のものがいて、その中に息子がいたかは分からないとも話しました。
一方、最初におんどうへ向かう前には、坊さん自身が「あのものたち」と複数を思わせる呼び方をしています。最初から複数だと知っていたのか、別の意味でそう呼んだのか。原作では、この食い違いも説明されません。
この食い違いから、隠し事を疑うことも、坊さんの理解に限界があったと読むこともできます。ただ、影が4つ、一つを祓ったから残りは3体という引き算はできません。Bが見た影と、坊さんが説明する対象が、一対一に対応するかも分からないためです。
二階の影は、なぜBに見えたのか
Bは、それまで霊を見るような経験はなかったと答えています。以前から霊感の強い人物だった、という設定は示されていません。
また、物語全体を通してBだけに怪異が見えたわけでもありません。語り手も、後におんどうの壁の隙間から顔を見ています。昔話では村人たちが異様な子の姿を見ており、「母親以外には絶対に見えない」とも整理できません。
坊さんが不思議がっているのは、母親しか分からないはずの子の成長を、Bが認識したことです。その理由は明かされず、場面によって誰に何が見えるのかにも、謎が残ります。
爪の巾着・臍の緒・おんどうの意味|儀式は実在する?

この章のポイント
- 爪の巾着の目的と、「おんどう」の漢字は明かされない
- 臍の緒を「命の綱」とする習俗は、現実の記録にもある
- 作中の儀式そのものの実在は、今回の調査では確認できていない
臍の緒を大切にする習俗は実在しますが、それが作中の儀式の実在を裏付けるわけではありません。
爪の巾着は何のために渡された?
女将さんが渡した巾着は3つ。そのうち、坊さんが開けて爪を見せる場面が描かれているのは、Bの袋だけです。
| 受け取った物 | 渡した人 | 寺での扱い |
|---|---|---|
| 小さな巾着3つ | 女将さん | Bの袋を開けると大量の爪。語り手は自分の袋の処分を頼む |
| おにぎり3人分 | 美咲ちゃん | Aが、受け取ったことを坊さんに伝える。中身を調べる描写はない |

Bがおんどうに入れなかったことから、坊さんは持ち物を調べました。爪を見つけたあとに荷物を預かり、Bを再び清めています。巾着が問題のある物として扱われたことは読み取れますが、爪の具体的な働きは説明されません。
怪異が追うための目印だったのか、何かを憑かせる道具だったのか。いずれも考察の余地はありますが、3つの袋すべてに同じ物が入っていたことも含め、断定はできません。
あわせて読みたい: リンフォンは実在する?写真・後日談・元ネタを原典から検証 ― 謎の品を手にしたことから始まる、もう一つのネット怪談です。
臍の緒は、母と子をつなぐ「命綱」
坊さんの昔話では、臍の緒は母子の結びつきを示す物として登場します。海で行方不明になった子が、母のもとへ戻るための命綱だったと説明されます。
女将さんは、この土地の出身ではなく、息子に臍の緒を持たせていませんでした。手元に残った臍の緒で、どう儀式を行ったのか。坊さんは、試行錯誤の末に、元の儀式とは違うものを完成させたのではないかと推測します。
ここで、女将さんが保管していた息子の臍の緒と、3人が小屋で過ごした翌朝、おんどうの奥の岩の上で見つかり、木箱に入れられた臍の緒は、同じ物だと確認されていません。両者を同一視して、祓われたものは息子だったと結論づけることはできません。
怪異の成長に、共通する段階はある?
昔話の最初の母親の家からは、子の成長を書き留めたメモが見つかったといいます。坊さんが説明したその内容と、Bたちの体験を比べると、似た動きが出てきます。
| 母親の記録として語られる段階 | Bたちの体験 |
|---|---|
| 四つ足で動き回る | 壁や天井を蜘蛛のように動く影を、Bが見る |
| 言葉を発する | おんどうの外から、美咲ちゃんに似た声が聞こえる |
| 立つ | おんどうへ向かう途中、Bが二本足でついてくると話す |
ただし、順番は一致しません。母親の記録は発声のあとに立つ順ですが、Bが立っていると話したのは、おんどうで声を聞くより前です。
また、この成長記録を、語り手が古い文書から直接写したわけではありません。坊さんから聞いた内容を、記憶にもとづいて書き直しています。似ている部分はあっても、怪異が必ず同じ順序で育つとまでは読み取れません。
現実の臍の緒の習俗と、作中の儀式は分けて読む
『多摩市史 民俗編』565〜566頁には、臍の緒を桐の箱に保管し、その人の命の綱と考える習俗が記録されています。大病のときに煎じて飲ませるとよい、という言い伝えも載っており、作中で坊さんが挙げる言い伝えと重なります。下関市立図書館の調査事例にも、臍の緒に霊魂が宿るとする俗信や、本人が亡くなるときに一緒に埋葬する例が紹介されています。多摩市史/レファレンス協同データベース
こうした資料は、臍の緒を特別な物として扱う文化の存在を示します。しかし、海で行方不明になった子を呼び戻すという作中の儀式そのものを、実在の風習として確認できたわけではありません。
「おんどう」とは?寺へ向かう道に鳥居があるのは不自然?
「おんどう」は、語り手が耳で聞いた音として書いている言葉です。漢字は明かされておらず、「御堂」などの表記を確定することはできません。
作中の「堂」は、女将さんが旅館の二階へ続く階段に作った儀式の場所。「おんどう」は、3人が怪異から身を守るために入った、寺の奥の小屋です。名前が似ていますが、別の場所を指します。
寺へ向かう途中に鳥居があることも、ただちに設定の誤りとは言えません。日本では歴史的に神社と寺院が深く結びついてきました。ただし、それだけで作中の寺の所在地や宗派が分かるわけではありません。名取市「神社と寺院の結び付き」
元ネタは2ch?作者・実話説・原文が読める場所

この章のポイント
- 確認できる初期掲載は、2009年8月の「ホラーテラー」
- 2011年の洒落怖スレッドには「長すぎて転載を断念」という書き込みが残る
- 作者は2023年に「日向麦」と紹介された。実話の裏付けは、今回の調査では確認できていない
映画公式サイトは、ホラーテラーへの初投稿後、2ちゃんねるへ再投稿されたと説明しています。「2chで広まった話」と「2chで生まれた話」は、分けて考える必要があります。映画公式サイトの原作紹介
原文はどこで読める?全6回の掲載記録
ホラーテラーの保存資料では、投稿者名は「匿名さん」。各回の投稿日時は、次のとおりです。
| 回 | 投稿日時 | 保存ページ |
|---|---|---|
| 第1回 | 2009年8月4日 18:29 | リゾートバイト |
| 第2回 | 2009年8月5日 01:15 | リゾートバイトⅡ |
| 第3回 | 2009年8月6日 01:05 | リゾートバイトⅢ |
| 第4回 | 2009年8月10日 00:11 | リゾートバイトⅣ |
| 第5回 | 2009年8月13日 03:42 | リゾートバイトⅤ |
| 後日談 | 2009年8月18日 19:18 | リゾートバイト(その後) |
表の題名・投稿日時・投稿者名は、2009年に保存された各回のページで確認しました。投稿日時と、Wayback Machineがページを保存した日時は別です。
保存ページを開けない場合は、個人ブログ「じゃぱり書庫」の原典のコピーでも通して読めます。各回の区切りや、作者が添えた言葉も収められています。こちらは2022年の再録です。本記事では、2009年の保存記録とこの再録を本文の確認に使用していますが、全6回の一字一句の完全一致は未検証です。
2010・2011年には、掲示板でも話題になっていた
美咲ちゃんの章で紹介したとおり、2010年11月のニュース速報板には、ホラーテラーのURLを紹介し、登場人物の謎を考える書き込みが残っています。
さらに2011年5月13日、オカルト板の「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?264」にも登場します。このように怖い話を集めるスレッドが、通称「洒落怖」です。そこには、リゾートバイトも転載したいが、長すぎるので断念したという書き込みがあります。

この投稿から分かるのは、少なくともこの書き手が、リゾートバイトを長い怪談として知っていたことです。洒落怖の読者全体にどこまで知られていたか、最初の全文転載がいつだったかまでは分かりません。
ホラーテラーで投稿され、掲示板でも読まれ、転載を通じて広まっていく。その流れの中で、「洒落怖の話」として記憶する読者も増えたのだと考えられます。
あわせて読みたい: 地下のまる穴|宗教団体の正体と後日談を原典検証 ― 同じ2009年のホラーテラー投稿と、その後の転載記録をたどった記事です。
作者「日向麦」とは?映画公式サイトが紹介した投稿者
2023年8月7日、映画公式サイトは、原作の投稿者を「日向麦」と紹介し、映画化に寄せたコメントを公開しました。制作側が投稿者と連絡を取り、映画化への協力を得たとも説明しています。映画公式サイト・日向麦さんのコメント
永江二朗監督も、投稿者本人に会ったことをインタビューで語っています。2009年の掲載名義「匿名さん」とは別に、映画化に際して紹介された名前が「日向麦」です。監督インタビュー
実話なのか。舞台の旅館はどこなのか
投稿や映画化は確認できますが、物語の出来事が実際に起きたと裏付ける第三者の資料は、今回の調査では確認できませんでした。 作者が映画化に協力していることも、体験の事実性を証明するものではありません。
原作では地名や旅館名が伏せられており、舞台の所在地は特定できません。海の近くにあることなど、作中の条件だけで実在の旅館に結びつけるのは無理があります。
なお、次の章で紹介する映画のロケ地を、そのまま原作の舞台と考えることもできません。原作の所在地が公表されたわけではないためです。
映画『リゾートバイト』と原作の違い

この章のポイント
- 2023年10月20日公開。監督は永江二朗、主演は伊原六花
- 原作の場面を取り入れながら、人物や展開を映画向けに変更
- 2013年にも、同じ監督が映像化していた
主人公たちや秘密に近づくきっかけを比べると、その違いが分かります。映画のあらすじと撮影地は、岡山観光WEBの作品紹介で確認できます。旅館名「八代屋」は、シネマトゥデイの作品紹介にも登場します。
| 比較する点 | 原作 | 2023年の映画 |
|---|---|---|
| 主人公たち | 語り手の「俺」と友人のA・B | 内田桜(伊原六花)、真中聡(藤原大祐)、華村希美(秋田汐梨) |
| 舞台 | 地名や名前が伏せられた海辺の旅館 | 島の旅館「八代屋」。撮影は岡山県笠岡市の白石島 |
| 秘密に近づくきっかけ | 女将の食事運びを不審に思い、3人で確かめる | 女将の食事運びを桜が目撃。その数日後、従業員の岩崎が、旅館の「秘密の扉」を探す肝試しを提案 |
| 女将と主人 | 真樹子さんと、名前が伏せられた旦那さん | 真樹子(佐伯日菜子)と健介(坪内守) |
女将の「真樹子」という名前は、原作にも登場します。一方で、映画の人物設定や結末を、そのまま原作の謎への答えにすることはできません。
監督は、「禁后」「おつかれさま」など、ほかのネット怪談の要素を映画へ取り入れたと話しています。原作を読んだ方も、異なる展開を楽しめる作りです。監督インタビュー
2013年にも映像化されていた
映像化は、2023年が初めてではありません。2013年製作の映像作品『検証!2ちゃんねるの呪い 其ノ弐』にも、「リゾートバイト」が収録されています。構成・演出は永江二朗で、クロックワークスの作品紹介でも確認できます。クロックワークス・作品情報
考察おおかみ|二階の食事は誰のためだったのか

この章のポイント
- 二階へ運ばれた食事は、帰りを待つ「陰膳」に重なる
- 息子の代わりに招かれた3人が、怪異の「親」にされるという役割の反転に注目
- 以下は原文の描写を軸にした考察であり、正体を確定するものではない
ここからは、当サイトの語り手である私、考察おおかみの考えだ。
この話を読み返すと、私はいつも、二階へ運ばれる食事に引き戻される。誰かの帰りを待つための食事が、別の誰かを帰れなくする。その反転に、この怪談の怖さがあると思う。
帰りを待つ食事を、別の若者が食べていた
陰膳(かげぜん)という習俗がある。家を離れた人の分の食膳を用意し、無事を祈るものだ。遭難して生死が分からない人のために供える場合もある。日本大百科全書「陰膳」
海で行方の分からなくなった子を待ちながら、母は二階へ食事を運び続ける。先の見えない待ち時間が、あの残飯の山には積み重なっているように思える。
作中では、その食事を陰膳とは呼んでいない。それでも私は、いない人の分まで用意する、帰りを待つ膳の姿を重ねてしまう。
AとBが見たのは、その膳を口にする語り手の姿だった。息子ではない。本人は、そのことを覚えていない。
息子と同じ年ごろの若者が、息子のためかもしれない食事を口にする。私には、待たれていた子の席に、別の若者が座らされた場面に見える。
息子の代わりに呼ばれた3人が、「親」になる
旦那の話を坊さんが伝えたところでは、女将は、息子が帰ってきたように感じたくて3人を雇った。一方、坊さんの推測では、戻ってきたものは3人を「親」として見ているという。
子の代わりに招かれた若者が、今度は怪異の親にされる。この役割の入れ替わりが、私にはいちばん残酷に思える。
Bには、その姿が見えた。坊さんは、見つけてもらえたのが嬉しかったのだろう、と話す。
女将の息子は、大勢で捜しても見つからなかった。一方、二階からついてきたものは、Bに見つけられて喜んだという。両者が同じ存在だとは言えない。だが、「見つからない子」と「見つけられたもの」の対比は、どうしても心に残る。
そして夜、それは美咲ちゃんに似た声で、Bの名前を呼んだ。
生死の境にいる人や、亡くなった直後の人の名を呼び、よみがえりを願う「魂呼び(たまよび)」という習俗がある。長く行方不明の子を呼び戻す作中の儀式とは異なるが、名を呼んで相手をこちらへ戻そうとする発想を連想させる。浄土宗大辞典「魂呼び」
この場面では、呼ぶ側と呼ばれる側が逆だ。母が子を呼ぶのではなく、帰ってきたものが「親」を呼んでいる。
蜘蛛の影と、カラスの声が残すもの
坊さんの昔話では、母親は体を食い破られていたのに、幸せそうな顔をしていたという。帰り道の男性は、子が親を食うなんて蜘蛛みたいな話だ、と言った。
実際、カバキコマチグモには、子グモが母グモを食べてから巣を離れる生態がある。ただし、作者がこの蜘蛛をモデルにしたかどうかは分からない。国土交通省・太田川河川事務所の生物資料
作中には、蜘蛛を思わせる描写が重なる。扉の釘に絡んだ紐。壁や天井を這う影。昔話の中で、蜘蛛のように地を這ったもの。そして事件のあと、Bは蜘蛛を見るのが苦手になった。
旦那は、このまま帰れば持っていかれると警告した。3人が「親」にされていたなら、その言葉には、子に食われる側になるかもしれないという恐ろしさが重なる。
カラスの声も、離れた場面をつないでいる。おんどうの外でAが聞いた奇声。昔話の子が、母の声に応えて上げた鳴き声。そして最後の電話の向こうで鳴くカラスだ。
この三つの場面の声が同じ存在のものだと、確かめる手段はない。それでも、最後の電話を聞くと、旅館の出来事が終わったようには思えなくなる。
坊さんは、女将はまだ死んでいないと話した。それなのに、救えなかったとも言った。
生きていることと、救われたことが、ここでは重ならない。
あの二階へ運ぶ食事は、まだ用意されているのだろうか。
資料について:『リゾートバイト』は、第1回から第5回、後日談「その後」までの全6回について、2009年の原掲載ページの保存記録を特定しました。本文の確認には、当時の保存記録と2022年の原典再録を使用しています。ただし、全6回の一字一句の完全一致は未検証です。掲示板の画像は、当時の書き込みを2026年に表示した画面です。映画・民俗・生物に関する出典は、該当箇所にリンクを付けています。資料確認日:2026年10月21〜22日。



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